【2025年2月】「歴史を読み解く城歩き」にみる教養と観光の両立【書評】

初心者から上級者まで楽しめる城歩き指南書

城を訪れる楽しみは、単なる観光にとどまらない。
歴史の流れを肌で感じ、当時の人々の暮らしや戦略を
想像することで、より深い教養へとつながる。
千田嘉博氏による『歴史を読み解く城歩き』(朝日新書)は、
まさにその楽しみ方を指南する一冊だ。
本書は新書版ながら318ページにわたり、
城に関する幅広い知識を網羅している。

◆ページめくりで城めぐりするきっかけ

千田嘉博氏は大学の城郭考古学の専門家
でもある。その専門的な知識を活かしつつも、
本書は初めて城を訪れる人から
城歩きを趣味とする人まで、幅広い層が
楽しめるように工夫されている。

千田先生はX Twitterで
城にまつわる情報やテレビ出演情報を
発信しておられるが、
いつもユーザーに合わせたフランクな表現で
書かれている。
それで興味を持って本書を手に取ったのだが、
これも専門的な知識がなくても
スムーズに読み進められた。

本書の特徴の一つは、日本の城だけでなく、
外国の城や修道院についても写真付きで
紹介している点だ。

例えば、西洋の城と日本の城の違いを
比較しながら、それぞれの文化的背景を
解説することで、城という建築が単なる
防御施設にとどまらず、
時代ごとに社会的・政治的な役割を
果たしてきたことを示している。
この比較考察によって、
外国と日本の城の共通点、
あるいは日本の城の独自性が
より分かりやすく頭に入る。

◆日本の城の変遷と築城技術の進化

また、日本の城の構造の変化についても
詳しく説明されている。
今はなき安土城を想像しながら、
戦国時代の山城から、江戸時代へと
移り変わる過程をたどっている。

実は子供の頃、母から誕生日の
プレゼントに小学館の「城なんでも入門」を
プレゼントされ、
安土城や姫路城についてとても興味があった。
絶版となってしまったようだが、
本を取っておけばよかったと後悔している。

本書を読んだことにより、
築城技術の進化や戦術の変化について、
子供の時以来の理解を深めることができた。
今度城を歩く際には「なぜこの形なのか?」
という視点を持つことができ、
単なる観光がより知的な体験へと
変わるのではないだろうか。

◆城から学ぶ処世術と社会の仕組み

本書がユニークなのは、城の解説を通して、
現代社会を生き抜くための処世術を学べる点
にもある。

武家社会の規範や戦略を現代のビジネスシーンに
応用し、職場での立ち回り方や組織内での生き方
についてサラッと触れている。

そのため、歴史書としてだけでなく、
ビジネス書、生き方指南書の趣も
持ち合わせており、
読者の関心を多方面に引きつける。

さらに、日本における城の保存に
関する課題についても言及されている。
近年、熊本城が自然災害の影響を
受けており、維持管理の必要性が
高まっている。

また、観光資源としての城を活用する上で、
バリアフリー化の重要性も指摘されている。
城を未来に残すための具体的な提言が
なされており、文化財保護に関心のある読者にも
響く内容となっている。

総じて、『歴史を読み解く城歩き』は、
城歩きをより豊かな体験へと昇華させる一冊である。

歴史の知識を深めるだけでなく、
現代社会の生き方についてのヒントを得る
こともできる。
観光として城を訪れる人も、歴史好きで城を巡る人も、
手に取る価値のある本だ。

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