【2024年4月】ゴードン・スミスのニッポン仰天日記【書評】

19世紀にイギリス人が体験したニッポン

この本を読むのは実に30年ぶりである。

日本テレビで放送された「たけし・さんま世界超偉人10万人伝説」
(~万人の数字は番組回数が増えるごとに増えていた)
で放送されて話題になり、まだ通販のない時代、神保町の三省堂に
買いに行った記憶がある。

当時、学芸員養成課程を履修中で西洋史学を知るヒントにしたかった
ので買ったのだ。結局、日本国内で学芸員として登録博物館に勤務
するのは非常に狭き門だということがわかり、現在は全く違う職業に
就いた。

昨今、訪日客の嗜好が「体現型観光」にシフトしていることが
報じられているので、2世紀前のイギリス人が何を見て、何を考えたのか
をもう一度、おさらいしてみるのも面白そうだと考え、再読書することにした。

◆発端は富豪のイギリス人博物学者の逃避行

1980年代にイギリスのテレビディレクターが、山荘でバカンスを楽しんだ。
その山荘のオーナーが、自分の祖父が書いていた8冊の旅行記を見せたこと
から事態は動いた。

作者はゴードン・スミスという富豪、そして博物学者としての顔も持っていた
そうで、訃報時には日本で死亡記事が掲載されていたのである。

大英博物館の依頼で博物標本を採集するために日本をはじめとするアジアを
訪問、そこで見聞きした内容を筆記、絵はがきや写真も貼りつけられた
貴重な資料であったのだ。

気ままなペースで狩猟や採集に出かけられるだけの財力があったのと、
当時、妻との離婚問題を抱えてゲン直しの意味で、日本に渡ったことが
紹介されている。

当時のヨーロッパ博物界では、魚類・鳥類・哺乳類の標本採集がさかんだった
ようで、大英博物館の依頼を、恐らく「無給」で受けていたということにまず
驚く。

シーボルトやモースのような役割を、彼が担っていたようだ。

◆どの辺に出かけたのか

本書は全10章357ページにわたる中編である。
主な動きを抜粋してみた。

◆庶民の暮らしを活写

外国人から見たニッポンといえば、フジヤマ・ゲイシャに偏りがちなのだが、
彼の旅行記は、そういう観察も交えつつ、骨董品屋や市場、草木の美しさ、
庶民の暮らしぶりも記録している。

写真をたくさん撮り、専門の絵師に書かせた豊富な記録がたくさん残されている
ことは奇跡的だ。
大英博物館の要請で資料採集を目的としていたせいもあるが、潮干狩りや漁に
しばしば同行し、彼らの技術の高さ、人としての優しさに敬意を表する描写も
度々登場する。

最近、訪日客の体験型ツアーでどこに行くか?をリサーチするのが当たり前で、
コンビニ菓子やファストフードや銭湯が人気らしいが、すでに明治維新の頃に
彼が露店やバーゲンセールや銭湯を頻繁に訪れているのも素晴らしい。

また、1904年の日露戦争下の状況を英国人の目で冷静に観察し、兵士の家族のための
募金活動を行ったり、イギリス政府の対応を批判する描写も度々出てくる。
このあたり、日本史・世界史の教科書では中々学べない生きた情報もあり、
とても新鮮な驚きであった。

もちろん、本業の博物学の採集も随時行っており、標本を英国に送る、
日本政府に猟鳥と魚の保護について提案する活動もやっている。
この功績により、イギリス帰国時に叙勲されたようだ。

ここまで面白く、30年前にかなり話題になったこの1冊、文庫化される
こともなく、現在は絶版扱いになっているのが非常に残念だ。

もし興味を持たれた方は、
図書館のデータベースや古書専門サイトで検索することをおすすめしたい。

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