【2024年4月】新潮新書 1985年と昭和レトロ【書評】

昭和レトロブームの中読み返す記録

もう40年ほど前になるが、ジョージ・オーウェル著の「1984年」というSF作品がベストセラーになった。その作品の翌年(1985年)をターゲットにした作品である。

本書を購入したのは2005年、約20年前なので、正直かなり熟成された状態での再読となる。全7章立てで、政治・経済・世界・技術・消費・社会・事件の切り口で様々な見解が書かれているのだが、今回、観光政策等の切り口でこれを読み返すとどういう感想を持つのだろうか?という興味でご紹介することにした。

◆「豊かさ」の感じ方は?

我が家は当時、バブルがあろうとなかろうと教育費や食費で大変な時期だった。よくありがちなセリフだが「よそはよそ、うちはうち」の状態で、プラザ合意がどうのこうの言われても、全く縁のない話。戦後政治の総決算をスローガンにした中曽根政権の時代で、3公社(国鉄、電電公社、専売公社)が民営化されたのは印象に残っているものの、その詳細まではよくわかっていなかった(年齢的なものもあるけれど)。

通産省(経済産業省)もこの時期「輸入品生かしてわが家も国際化」というスローガンを掲げて輸入拡大を訴えていたというくだりは、積み立てNISAを始めとする投資を呼びかける今の世界に通じるものがある。

◆「万博」でどちらを思い出すか?で世代がわかる

1985年は、つくばで科学万博が開催された記念すべき年でもある。私も観に行ったのだが、SONYのジャンボ液晶画面で記念写真を撮ったこと、富士通館が人気で入れずにあきらめたこと、東芝館は入ったこと、ハンバーガーが1個300円(通常は150円の時代)だったことは覚えている。全部のパビリオンを経験するには複数回の入場が必要だったし、結構高い入場料で、そんな余裕はなかった。家族が遠足で万博に行くのを控えていた時期で「とにかく会場に入ったら、1番人気の富士通館めがけて走れ」と教えたので、無事、富士通館を観られたらしい。

しかし筆者(吉崎 達彦氏)によれば、万博といえば「大阪(1970年)」というのが当たり前であり、「つくば」というのは団塊ジュニア世代であると区分している。そういわれてみればそうかもしれない。

1970年の万博は「進歩と調和」をテーマに、敗戦から25年を経た日本が東京五輪に次ぐ国際イベントとして企画、これで先進国の仲間入りを果たしたと言われる大イベントだった。

2020年の東京五輪が新型コロナウイルスの影響により1年延期になった際に「国際イベントで国威発揚は古い」という意見がかなり散見された。これもネット普及の影響によるもので、移動せずとも何でも体験できる昨今、コストをかけてイベントをする意味があるのか?というハコモノ行政への疑問が噴出した、高度成長期には見られなかった本音である。

来年の2025年に大阪で二度目の万博が開催されるが、こちらのテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」だ。パビリオン完成の遅れが報道され、機運の醸成も課題になっている。開幕から閉幕までの期間、日本人はどのような感慨を持つのか興味深く眺めている。

◆消費税導入前の高級アイス店ブーム

本書は消費に関する考察も中々興味深い。行列ができるアイスクリーム店の紹介も懐かしい。いまやコンビニやスーパーのカップアイスの定番「ハーゲンダッツ」の1号店、「ホブソンズ」「ロバーツ」「サーティーワン」などのブームも紹介。

都心のオシャレなエリアで高いというのが売りだったので、当然、手が出る代物ではなかった。インターネットがなかった時代にどうやって店の情報を知ったのか?といえば、ファッション雑誌とラジオだった。ラジオでパーソナリティーがホブソンズの行列を実況中継し、並んで買い、食べている音を実況していたのを聞いていたのだが、溶ける食品の舐める音を聞くのは、聴衆の想像力を掻きたてる面白い試みだった。

忙しいはずの東京人が、わざわざ行列に並ぶという行為に高級感をひっつけた戦略だったのだろうが、昨今はネットで何でも買える時代なので少々、理解できないかもしれない。

◆重大事故・事件もあった年

空気感としては金満・バブル前夜の流行が多いと考えがちだが、日航機墜落事故をはじめ、深刻な事件も多数発生したのが1985年の特徴である。本書の「事件」(第7章)では、墜落事故、三光汽船の倒産、阪神タイガース優勝の分析を試みている。

この時代を知るものとしては、たまらなく懐かしさを覚える1冊であるが、知らない世代にも現代史の教材としてオススメの1冊である。

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