【2024年9月】「老後ひとり難民」とおひとりさまの落差【書評】

もてはやされた「おひとりさま」が受けるシビアな現実?

アフタヌーンティー、あそび…
終活、自治体…
天国…

これ何かというと、「おひとりさま」をキーワードに
したときに引っかかったWordである。
この言葉がブームになったのは、私が社会人になって
数年後だったと思う。
だから1990年代後半から2000年代にはあった言葉だった。

その10年くらい前は、25歳過ぎると売れ残る
「クリスマスケーキ」
31歳に引きあがった「大晦日」
とか今ならエイジハラスメントやセクシャルハラスメント
で一発アウトなことを言われ続ける身も蓋もない時代があり、
それへの反発心からこの言葉が流行って
定着していった。

それから約四半世紀、この世代が親の介護や介護保険を
負担するようになり、意識がどのように変わっていったのか?
を探るべく手に取った。

◆親の介護で見えてくる20年後の自分

母が要介護状態になって8年が経過した。
社会人として通勤、残業などをこなしながら、
家族で連携して様子を見ていたが、手続きの大変さと
介護事業者とのアナログな連絡手段が原因の
無駄な待機時間の多さには今でも難儀している。

徘徊癖のある母をGPSで逐一チェックし、
おかしな動きがあれば携帯電話で連絡して自宅に
引き戻す、それでも無理な場合に職場に早退を
申し出て、母を捕まえて自宅に連れ帰る
というのを何回やっただろうか?

結局、仕事を辞めて起業を本格化させた頃に
新型コロナで緊急事態宣言が発令された。
あのまま勤務していたら、母は徘徊して感染して
いたかもしれない。
夕方帰宅する母を連れ帰り、まずお風呂に
入れることを習慣として「刷り込み」することで、
感染のリスクを下げ、ここまで乗り切って
きたのは奇跡としか言いようがない。

家族の辛苦に対して、誰が褒めてくれる
わけでも報奨金が出るわけでもないけれど、
親の手続きを重ねることで
自分の老後のシミュレーションが
できてしまう、
そして考えさせられてしまうのである。

総務省の調査によれば、65歳以上の推計人口は
3625万人で、高齢者の就業者数も914万人で、
どちらも過去最多を更新した。

年金の受給年齢を繰り下げろという話も
さかんに出ているが、年金だけではやって
いけない、社会と接点が欲しいという理由で
働いている高齢者もいるだろうし、
専門性の高い職種なら「技術の継承」目的で、
来ていただいている場合もあるだろう。

ただしあくまで自分の食い扶持の話
であって、自分の伴侶や家族に要介護者が
出た場合、誰の財布から介護費用を出すのか?
この視点が、現在あまり語られていない。
バリアフリーにしましょう、介護用具を
借りましょうの話ばかりで根本的な議論が
出てこないことにずっと疑問を感じていた。

◆流行から外れる老後の現実

ここ数年、実用書のジャンルでは
FIREとか投資に関する本が軒並み
ベストセラーである。

・目標設定金額は1億円
・子育てにかかるお金をシミュレーション
・携帯電話は格安メーカーに変更
・カーシェアリングの車か電車利用
・持ち家ではなく賃貸住宅にする
・不用品はメルカリで売る
・副業で得たお金を投資に回す

辺りが奨励されている。
この目標に向けて家族一丸となって
節約に励み、お子さんを教育するのは
素晴らしいことだけれど、
この最中に親が要介護者になった場合、
親の年金や貯金の切り崩しだけでは
済まない事態が必ず発生する。

親が賃貸住まいであれば、その更新は
どうなるのか?
不動産を持っていてそこを処分したい
となったときに、登記上の名義人が親で、
事理弁識能力を欠く状態になった場合に
どうするのか?

その交渉事を遠方に住む息子・娘が行う場合は
交通費だってかかるのである。
自分が子供に迷惑をかけないために介護費用を
貯めておく他に、親の介護費用を被る可能性も
あるのだ。

FIREに憧れる気持ちは誰にでもあるが、
15年後、20年後の思わぬ出費と心労も
加味しておく意識は大切である。

◆だからといってどうにもならない

独身で要介護になった場合、
一番困るのが「身元保証人」がいないこと
である。
そのために賃貸住宅が借りられない、
入院ができない、埋葬ができない、
遺品の整理ができない等々、
この本が伝える現実は厳しくシビアだ。

認知症で介護施設に入る場合も「保証人」
の有無が追いかけてくる。
保証人なしできちんとした施設に入れない
場合に、無届の施設に入って保険証書や
預金を管理されてしまう、
いわゆる貧困ビジネスに繋がる
危険性もきちんと書かれていて、
今から保証人を探すシミュレーションを
しておこうという気になってきた。

また、身寄りがいても接触を拒否される
場合も少なからず紹介されているのだが、
国の追跡調査がまだまだ追いついていない
ようだ。

ここまでくると「独身でいるからこうなるのだ」
「家族とうまくいかないからこうなるのだ」
と責め立てられているような気もしてくるが、
悪いことをして罰が当たった
みたいに考えるのも性急ではないのか?
と思う。

先ごろ話題になった都知事選でも、
子育て支援は争点になっていたけれど、
おひとりさまの終活的なことを争点にした
候補者は誰もいなかった。

支援されれば子供が増えるのか?
といえばそうでもない、ライフスタイルの変化
であり、そのしがらみの少ない東京で、
自分の思い通りの人生を送りたいという
人が今後も出てくることだろう。

終活という言葉もここ数年、
クローズアップされてきているので、
公的支援と自分の経済状況と体力を
見極めながら、まめに認知症チェックを行う、
危ないと感じたら認知症外来で早目の受診を
するなどの「備え」は今からしておいた方が
よさそうだ。

その水先案内人として、この本は
手元に1冊置いておくことをお奨めしたい。

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