日本最高峰が唸った集中講義の全貌があきらかに
新書で話題になっていたので、ファッションに疎いけど興味が
あったので一読。
神戸大学の専任教員である筆者(平芳裕子氏)が、東京大学の
駒場キャンパスでの集中講義をそのまま新書にした一冊。
口語をそのままの勢いで文章化した本については、かつて
クイズダービーの回答者だった篠沢秀夫教授の
「篠沢フランス文学講義」を読んでいらいだったが、
読みやすく一気にいってしまった。
◆歴史に精神分析学も加味
集中講義4日間(全12講)は、裁断の成り立ち、
貴族社会での衣服のあり方、アートとの関係性など
を紹介。
印象に残ったのは
・ファッション史はなぜ女性のことばかり書かれているのか?
・モードとファッションの違い
・布の裁ち方は口承技術だった
・貴族社会でははなやかな装飾に男女差はなかった
・変容があったのはフランス革命(やはりというか)
・コルセットの廃止で自由を得た女性達
の辺りである。
大学受験で世界史選択していたおかげで、西洋史の概要は
頭に入っていたので、この辺はスラスラ読めた。
日本史選択の学生ならついていかれただろうか?と
考えたが、相手は東大生である。
心配は杞憂に終わっただろう。
◆現代ビジネスとしてのファッション
ファッションの世界では避けて通れない「シャネル」の
生い立ちと系譜にわかりやすく触れつつ、産業革命や戦争を
経た時代というものにも、ファッションをベースに切り込んで
説明していく流れはお見事というほかない。
コピー品の氾濫を防ぐための商標登録、ファッションショーや
展示会を利用したビジネスなど、20世紀になるとデザインの進化
だけではなく、広報戦略(見せ方)や知財保護(守り方)も
大きな変化を遂げてきたのがわかる。
さらに、縫製担当者の長時間労働や賃金の低さから労働問題
への切り込みもある。
世界史の教科書だけでは味わえない切り口、語り口である。
作者がいうところの「ファッションなんだけどモード」
なのである。
さらに「着る人」の心理の変化と時代を語るという壮大な
展開への無理がなく、ジャージ素材のような着心地のよい
文章運びだった。
「浅い」と言われていたものの(ファッション)
深くて味わいのある文明論になっているのはありがたい。
男女問わず、衣服を通した文明論、サブカルチャー論として
ご一読をお勧めしたい。
※ご紹介した「東大ファッション論集中講義」はこちら⇒クリック