ありのままの資源として地域で生きる「食」とは
追手門学院大学・北摂総合研究所の研究者7名が執筆した全10章からなる本書は、キャンパスが立地する大阪「北摂」地域の7市3町(豊中市、池田市、箕面市、吹田市、茨木市、摂津市、高槻市、島本町、豊能町、能勢町)を研究対象としている。
この地域の、従来の農村文化や郷土料理を紹介しつつ、地域振興につながる食資源を探求、これを仏語由来のガストロノミー(gastronomy/美味学・美味術)にまで昇華させた意欲作である。
近年、観光における食の扱いは増大している。昨今では、調理や提供、喫食、その体系も包括したガストロノミーツーリズム(美食に関わる全ての事象を対象とした観光)が注目の的だ。
本書もこの流れを踏まえ、農家レストラン(第2章)、農産物の地産地消(第3章)、清酒業(第4章)で、生産環境の高齢化、購買者の嗜好変化、取引先との関係、海外市場等について、国や自治体の調査データを用いて紹介。
さらに文芸(第5章)、食べ歩き(第6章)、博物館(第7章)、フードフェス(第8章)、批評(第9章)の各章では、人を「食に巻き込む」ためのツールについても紹介、地産地消の対局にありそうなインスタントラーメンのミュージアムが、ラーメン発祥の地として市の観光まちづくりの施策に取り入れられ、地域住民にも受け入れられている事例も紹介されている。
とりわけ印象的だったのが特別寄稿された「音楽フェスと食とまちづくり」の章だ。高槻ジャズストリートをはじめとした音楽フェスの運営方法を紹介していたが、会場が分散化されることに伴い、周辺飲食店のビジネスチャンスが生まれにくい地理的事情や、ネットワーク形成の重要性についても率直に語られている。
この章を読みながら、都内で毎年10月に開催される「お茶の水ジャズ祭」を楽しみにしていたのを思い出した。台風と新型コロナによる中止・延期が繰り返され、最終的にネット配信。昨年、形式をリニューアルした音楽イベントとして開催されていたようだが、リピーター層への周知は行われておらず、非常に落胆したものだ。
筆者のいう通り、類似の音楽イベントは日本中に多数あるので、ブランドイメージ定着、賑わいづくり、リピーターを取りこぼさない情報戦略(SNS等)とガストロノミーを、程よく同時醸成させることが必須である。これを繰り返すことで、おのずと自分たちのまちや産業に対する誇りも醸成されていくことは言うまでもない。
本書を著わした北摂総合研究所のプロジェクトには「ガストロノミー」の歴史的背景、奥深さ、地域振興との関わり方を教えていただき、大変感謝している。
2020年3月に惜しまれながら閉所された(あとがきより)とのことだが、今後も北摂地域あるいは日本国内での正しいガストロノミー定着について、継続的に政策提言してくださることを祈念してやまない。
(2024年4月3日)
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