正直、これのどこが問題発言なんだと思う国民は多いでしょう。私もそう思いますが
2020年9月17日付ABEMA TIMES ほか各紙で報道されている「前例主義、既得権益、権威主義の最たるもの 河野行革相、深夜の閣僚リレー会見に苦言」の話。
9月16日に菅内閣が発足後、各省大臣の記者会見が首相官邸で順番に行われ、時間が押しに押した。河野太郎行政改革担当大臣の記者会見時間は、何と翌日の未明。これに対して「この記者会見も大臣が各省に散ってやっていれば、今頃みんな終わって寝ているはずだ。ここで延々やっているのは前例主義、既得権益、権威主義の最たるもの。こんなもの、さっさとやめたらいい。ぜひご協力をいただきたいし、これを皮切りにやっていきたい。SNSでも発信していきたい」と意見を述べたところ、国民からは「ごもっとも」の声が多数寄せられていました。
◆何とこれに反対するメディアがいた
どう考えたって深夜業。記者は入れ替わり立ち替わりするんでしょうが、残業です。労働基準法第38条によれば、
使用者が、労使協定により所定事項を定めた場合において、労働者を専門業務型裁量労働制の対象業務に就かせたときは、当該労働者は、その協定で定める時間労働したものとみなす
とあります。その対象業務の中に、「新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送番組の取材若しくは編集の業務」と指定されています。災害・事件等が発生した場合の迅速な報道の使命として指定に入り、残業代も支払われると思います。
ただし、その労使協定の内容として定めるものとして「対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること」ともありまして、この観点からいうと、きわめて緊急性の高い災害・事件ではない、「単なる就任会見」を深夜まで延々とやる必要性があるのか?って考えたら、大臣の発言はしごくまっとう。
翌日の新聞やテレビ各社は、「社としての見解」を載せない形で大きく報道しました。そりゃ、内心で思っている記者もいるでしょうに。すると、これに異を唱えたのが「面白くなければテレビじゃない」のフジテレビ解説委員!
元大阪市長の橋元徹さんとワイドショーで激論交わした内容では
1.会見の廃止は反対
2.県会議員からたたき上げてやっと大臣になりました(という人は)、あの会見が楽しみ、晴れ舞台
3.世の中にはあっていい無駄と悪い無駄
とありまして…。3番はともかくとして、2番はどこかで観たことのあるフレーズだと思って考えたら、昨年から今年の初めに騒がれていた「桜を観る会」について。
どこかの首長さんが「県民は呼ばれることを名誉、晴れ舞台だと思って楽しみにしている」ってコメントしたのとまるっきり同じ。「桜を観る会」は駄目で、深夜に及ぶ「就任記者会見」は存続って、そんな馬鹿な話が通るんでしょうか。
◆霞が関の傘下にある公益法人のおかしな常識
公益法人にいくつか在籍しておりましたが、国家公務員でない「法人」のため、労働基準法は適用対象です。それにも関わらず、労働条件や社会常識が妙なところで「霞が関ナイズ」されているおかしなところはたくさんありました。
今回の大臣就任会見と似たような経験があります。
全国団体の会議が毎年2~3回、東京開催になるため、開催経費がかさむことが問題になっていました。会費収入で運営している団体としては台所事情が苦しく、会員数の多い東京と大阪の団体に経費負担の割り増しをお願いしたところ「それならテレビ会議にしたらどうか」の提案を受けました。
要するに、ZoomやGoogle MeetやMicrosoft Teamsを使用した「オンライン会議」(当時はそんなに立派な会議システムではなかったですが)のことです。早速導入しようとしたら、他道府県から猛反発を受けました。その理由というのは、
「うちの会長は毎年2~3回、東京見物に行くのを楽しみにしている。かわいそうだから」
「東京に行けないのなら会長を辞めると言っている。他になり手がいないので会議は続けてほしい」
という、ひっくり返りそうな理由でした。現在、コロナウイルス対策で「3密」防止の観点から、強引に会議システムを導入した企業の方、大変多いと思います。しかしまだ、こういった既得権益に胡坐をかいて、前例を変えようとしない団体さんもあります。
このほかにあったおかしな常識としては、
■有給休暇は最長2年分(40日間)持ち越せるが、私の残日数が36日間(当時)だったので、土日祝日も休日出勤することを前提に「240日間」で霞が関に人件費を計上しているから休むな(大きなお世話)
■資格取得のために予備校通いをしている人が「残業せずに早く帰る」と上司に呼び出されて予備校通いをあきらめた
■上司の伝票の改ざん目的で部署全員が深夜残業させられ、夜中の2時にタクシー帰宅すること複数回
■残業中にセクハラされた女性職員が専務理事や事務局長に窮状を訴えたところ、今までなかった役職を作られた上に「一人部署」に配置転換させられた
という笑えない話もあります。一つの公益法人だけではなく、複数の公益法人での経験なのですが、どこも似たり寄ったりのところ。予算を頂く監督官庁の顔色ばかり伺い、職員の健康や快適な職場環境の整備とは程遠い。こういった体質に疑問を感じて、よその団体や企業から情報収集をしたり、資格取得のために学校に通う人を「要注意人物」「不満分子」として扱い、中堅・末端の職員にも同調圧力があるという、ちょっと恐ろしい体質です。
望まぬ深夜残業を強制された方は、結局、職場を退職されました。その直後、職場内に労働基準監督署の立ち入り検査が入りましたので、恐らくご本人から通報があったのだと思います。
◆霞が関や永田町界隈で仕事をする民間人への配慮を
前例主義にとらわれ、深夜の記者会見を「廃止するな」というのは簡単ですが、記者会見に同席する「手話通訳者さん」のことを考えているのでしょうか。恐らく、競争入札の形で手話通訳派遣会社と契約、そこから派遣される方々だと思います。労働基準法上は、一般労働者の扱いです。テレビ画面を観ていればわかりますが、コロナウイルス感染のリスクを抱えながら、フェイスシールド着用で、目と耳と手を酷使するお仕事です。相当な肉体疲労になることでしょう。
今回のような深夜会見終了後、終電も終わっているでしょうから、タクシー帰宅だと思いますが、タクシー代はきちんと支払われているのでしょうか。派遣社員の扱いですと、定期代込みの時給です(要するに交通費は出ない)と言われてしまいますから、ひょっとすると出ない可能性があります(支給されてほしいと願っています)。
こういったお仕事に携わる方の疲労の蓄積を避ける意味でも、行革担当大臣が提唱する「各省庁ごとの大臣記者会見」や「インターネット配信による記者会見」に舵を切っていただき、関係者の健康と安全に配慮する運営であってほしいと願っています。