逃げるが「勝ち」で「価値」ある避難を

防災士関連で、令和防災研究所が開催した第2回シンポジウム「令和時代の避難を考える~昭和・平成の災害を越えて」に、オンライン出席。以前、当社のブログ「前門のコロナ、後門の災害」で、首都圏防災ウイークでのパネルディスカッションの様子をご紹介いたしましたが、今回は防災士関連のイベントが動画配信されました。

◆避難といっても色々ある

私たちは通常、避難というとリュックサック背負って学校の体育館に移動する姿をイメージしがちです。何故かというと、自然災害が起こるたびにテレビ局が避難所前から中継するから。これで刷り込まれちゃった意識ってのは、なかなか変わるのが難しいです。
このシンポジウムでは、避難の定義として

1.危険な場所の人
2.危険が襲う前
3.安全な方法
4.安全な場所
5.危険が去るまで移動すること

の5つを挙げています。特に強調されていたのが、必ずしも避難所に行くことではなく、要するに自宅にいた方が安全なら、自宅避難で乗り切るということです。
特にコロナウイルスの感染拡大防止の観点から、避難所で3密状態を作り出すより、個別に対応した方がいいわけで、「避難の質」そのものが問われる状況になっています。

◆避難に特化した様々な提案

今回のシンポジウムは基調講演が約30分。その後、持ち時間約5分で8人の発表者による発表が続きました。
発表者は大学教授、都議会議員、日本防災士機構理事・事務総長、区長、研究者等のみなさまでした。発表の全てをメモすることが困難だったため、概略だけご紹介。

(発表とその概略)
①避難行動については、災害前と災害後で違いがある
②避難場所と避難と避難の違い→生活するところが避難所、わかりにくいため近年、「災害対策基本法」が改正された
③避難手段、ペットの同行等があり避難は案外難しいので、区市町村間の調整と都道府県の協力が必要
④ある企業のトップが推奨した「凡事徹底(ぼんじてってい)」という言葉があり、何でもないような当たり前のことを徹底的に行うこと、または当たり前のことを極めて、他人の追随を許さない。今回、新型コロナウイルス患者を受け入れた自衛隊中央病院も、このスローガンの元に徹底した対策を行った
⑤原則、在宅避難垂直避難(マンション避難)を推奨していきたい
⑥スマホを使用した情報伝達を行いたいが、単にスマホの使い方を教えるだけが防災教育ではない
⑦避難所の停電時に備えるフェーズフリーを開発。日常はスクールバスとして活用、災害時は非常用電源として使えるようにした
⑧都心にはタワーマンションが多いが、停電時でも最低限の生活ができる「LCP住宅」の普及啓発を行い、エレベーターに閉じ込められた場合の脱出訓練を行っているとこともある

◆避難格差は防災格差から来ている?!

後半は発表者全員がひな壇に座った上でのパネルディスカッション。会場参加者から寄せられたご意見を元にしたトーク中心でした。
「罹災(りさい)証明に時間がかかる。マイナンバーを活用できないのか」「都心災害で都民が広域避難となった時に、千葉県や茨城県は受け入れる気はあるのか」(千葉県は昨年の台風15号と19号対応を見れば無理でしょう)「命を守る行動をというが、避難所に入り切れなかった場合にどうするのか」という、本質を捉えたご意見が寄せられていました。
パネリストからも、避難の必要がない人が避難所に訪れることもあり、自治体によっては「一時避難所」の扱いにしているところもある、あるいは防災訓練で自衛隊のカレー炊き出しがあった際に「このカレーは実際の災害の時にみんなが食べられるわけではありません。家が倒壊したり火災で焼失して帰るところのない人達の食べるものです。そうじゃない人が食べたら、それは食べ物を横取りしているということになります。どうか必要な人だけ食べるようにして下さい」とはっきり言ったら、議会で怒られた話も出ていました。案外、災害対策の本音だと思いますが、弱者救済を謳うNPO法人の場合、こういったシビアな話し合いすら難しいと聞いたことがあります。

今回のパネリストは全員、東京在住の方です。東京の防災に対する施策が、私の住んでいる地域より相当に進んでいるのがわかりました。同じ防災士であっても、「各都道府県原則1支部」と定款変更したにも関わらず、2つの支部を抱える県があります。
その理由を日本防災士会に問い合わせたところ、「当初は支部発足がおぼつかず、とりあえず設置してもらうことを目標にしていた。その後定款変更したので、支部を統一してくださいとお願いしているが、統一できない県がある」とのお答え。「いや、定款変更したのなら、本部が各都道府県に号令をかけて一本化しないと指揮命令系統が2つも3つもあるわけで、それをやるのは本部の仕事じゃないんですか?」と更にたずねたところ「ご意見として伺いますが、本部として強制はできません。また、支部への所属は任意なので加入は強制しません」とのお返事。
まず、こういった問題を解決して情報の一元化をしない限り、東京並の問題提起や活動をすることは不可能です。
また、防災士ではありませんが、災害対策まちづくり支援をやっているNPO法人があります。
そこに所属している土地家屋調査士の団体は、「会費ばかり取られてうちの団体の名前の紹介が足りない」「他県で災害が発生した場合に人を派遣してくれというが、交通費や旅費を出してくれないボランティアなら行く必要がない」「他県で発生した災害ならその県の土地家屋調査士が動けばいいだけの話」等々、ちょっとびっくりするような発言をなさる方がいます。

そういった方が理事の要職を占めている職能団体は、社会貢献活動より利益優先なので、倒壊家屋の危険性判断や再建のための測量登記等を頼むのは不可能です。
協力してくれる職能団体や防災士の選別と、その人達への情報供給、それを全国に波及させるための体制づくりが大切です。

シンポジウムの冒頭、コロナウイルスでオンライン化が進み、逆に対面でのコミュニケーションの重要性が増したとのお話がありましたが、参加者の大半は首都圏在住者。
地方自治体からの生きた証言を記録するためには、オンライン会議のトークショーも一部取り入れる必要性があったのではないかなあと思いました。日本防災士会は、会員申し込みもいまだ郵送とFAXであり、オンライン申請を受けつけていません。総会をオンライン化できたのは一部の支部であり、本部のオンライン化は遅れています。
地方との迅速なコミュニケーションの一環として、オンライン化に舵を切ることもぜひよろしくお願いいたします。