【2024年5月】日本ワイン産業紀行で学ぶ真の「日本ワイン」【書評】

ソムリエ推薦本とは異なる産業としてのワイン

以前「大阪・北摂のガストロノミー」という本で、
従来の農村文化や郷土料理を紹介しつつ、地域振興につながる
食資源についての書評を行った。
いわゆる「見た目(体裁)のよさ」ではなく、
歴史的背景、産業構造、問題点などについての鋭い1冊である。

◆きっかけは小さな読書コーナー

本書を購入したきっかけは週刊新潮の「15行本棚」という紹介だった。
観光・インバウンド・地域経済についてのコンサルティングを行っている関係上、
様々な書籍に触れることがあるが、少なくとも「観光」関連でこの書籍を紹介して
いるところがなかったので、興味を持った。

ちなみに隣りが現在、朝ドラで放送中の「虎に翼」でモデルとなっている裁判官
の評伝だった。こちらも朝ドラと地域経済という観点では非常に面白い題材であると考え、合わせて購入した。

◆ただいま人気業種

インターネットが普及した1995年、SNSが普及した
2007年以降から若い世代の意識は変わりつつある。
それ以前は終身雇用が主だったが、転職サイト・人材紹介
サイトが24時間オープンになり、それこそ帰社後、
一風呂浴びてから転職活動が可能になった。

終身雇用や滅私奉公という意識が崩れ、インターネットで
様々な情報が集められるようになったことで、「働き甲斐」
「楽しさ」をより幅広く求められる環境になってきたのは大きい。
ワイン産業にも脱サラ組が次々に参入しているそうで、
この辺は1980年代に脱サラしてラーメン屋さんの開業が
マスメディアで報道されていた状況に似ている。

◆ソムリエ論が優先されがちな日本のワイン

ソムリエが語るワイン本は出せば大体、ベストセラーが
確約されるし、グルメ番組のワインバー特集も頻繁に見かける。
毎年2回は放送される「芸能人格付けチェック」という番組でも、
安いワインと高級ワインを飲み比べて高いワインを当てる問題が
出題されるのは、みなさんもご存知だろう。

そのため、ワインの市場動向をきちんと分析した本がなく、
そこに疑問を持たれた作者が産業論としてのワイン論を展開している。

本書は二部構成で、第1部は作者が北海道、長野、島根、宮崎、東京、新潟等の
ワイナリーを訪問し、生産者の生の声を聞くルポルタージュである。
第2部は産業市場におけるワインを、ブドウ栽培や国際競争力の観点から
鋭く分析した論説が中心である。

◆初めて知る情報が満載

ワインは飲むがワイン通ではない私にとって、
知った情報は非常に有益だった。その例をいくつか挙げると

●日本国内で製造されるワインの多くは、ブドウ果汁を輸入しその濃縮原料を使っている「国産ワイン」
● 国内産のブドウだけを使って国内で醸造したものを「日本ワイン」という
●障碍者雇用の場としてワイン造りを行う取り組みもある
●昭和初期のワインの醸造免許は、個人ではなく地区や集落単位で共同免許が出ていた(勝沼)
●日本で流通するワインは約7割が輸入ワイン
●若い世代は自己実現できる産業としてワイン造りを選んでいる人が多い
●ワイン人材を育成するための教育機関を持っている自治体もある
●ワイナリー同士の人材交流は結構さかん
●日本では高いワインがいいワインだという考え方が強く、良心的な価格で流通する良質なワインが「文化」として根付いていないのがネック

といったところである。

農業という地味なジャンルに見えつつ、休耕地をブドウ畑としてよみがえらせ、
そこからワインを作り出せば、小さな農園であっても国際的に認められる市場に
出られるという夢のある産業。

そして、働き方改革やSDG’sの観点から見ても、何故テレビ局はこういった視点を
持ってワインを取り上げないのだろうか?と思うほど魅力的だ。

寒冷地である北海道の気候で作られるワイン、特区を作っている山形・長野、東京にもワイナリーがあるなど、日本全国津々浦々で展開される日本のワイン産業、
他の農業でも応用できる要素はたくさんありそうだ。
自分の生き方に迷う人、農業に興味のある人、ワイン好きな人に
ぜひご一読いただきたい本である。

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