10月12日夕方近くになって入りました「作曲家 筒美京平さん死去」のニュース。
マスコミに登場したのは、平成になって2回程度、匿名性を保って作曲活動をやるのがモットーの方だったので、何となく年齢不詳、不老不死のイメージがあったのですが、ついにこの日が来てしまいました。
プロの方が代表的な作品については、ずいぶん評論や記事を書いていますので、私の方は個人的に好きな楽曲を織り交ぜた追悼文にします。
◆1.恋の追跡(ラヴ・チェイス)(欧陽菲菲)※以下、敬称略
最初の職場が閉鎖的な公益法人だったため、転職活動を視野に入れだした社会人3年目の頃。文章を書くのが好きで文学部に行き、マスコミ志望だった自分の姿を思い出して、(もう一度人生をやり直そう。今なら間に合う)と考えて、某コピーライター養成講座の夜間部に通っていました。
ある日、「カーナビのCMを制作するためのキャッチコピーとCMを考える」というお題が出されたときに、免許のない私が必死で考えたのが、「非日常に飛び込む女のドライブ」で、BGMにこの歌を選曲、へたくそなイラストと共に提出。
寸評は大手広告代理店のディレクターが務めていました。当時ですから、他の生徒は小室ファミリーの楽曲とかミスチルとか、当時の流行を選んでいまして、洗練された内容。「あ、時間ない。じゃあ、あと1点だけなんか選んで紹介します」と提出された宿題の山の中から、なんと最後の寸評に選ばれたのが私の宿題!
紙と一緒に提出したMDを再生したら、のっけからものすごいイントロが流れてきて、他の生徒はビックリだったんですが、講師はどストライクの70年代歌謡曲世代だったもので、「選曲がいかす。何でまたこれを選んだんですか」と聞かれました。
当時、作曲家活動30周年記念の8枚組のCD全集が発売されたばかりで、銀座山野楽器で買ったばかり。毎日聞いていたので選曲したものです。「今、HISTORYという筒美さんのアルバムを買ったばかりなので選びました」とお答えしたら、「そういうのを集めるのが好きなのか」等々、色々聞かれて授業終了。
コピーライター養成講座は、初級編は無事終了して、次のコースにすすむばかりとなっていたのですが、「残業しろ。早く帰るな」「みんなが残業しているのに残業しない理由を言え」と当時の上司に追及されまくり(仕事は終わらせて行ってたのに)、転職のためだとも言えず(辞表出せばよかった)、上級コースへ行くのをあきらめました。初級コースにいた友人で、その後、上級コースからあるCMプランナーの事務所に転職した人の写真を見るたびに、上司とケンカしてでも上級コースに行くべきだったなあと後悔する自分がいました。
◆2.飛んでイスタンブール(庄野真代)
1978年のヒット曲。まだ道産子の頃です。幼稚園年長組でしたが、ピアノを習いに行っておりました。姉ほど熱心ではなく、問題ばかり起こす素っ頓狂なピアニストでしたが、そのお稽古の帰り道、珍しくバスではなくタクシーで帰ったことがあります。ラジオから流れてきたこの曲の
♪夜だけ~の~パラダイス~
の意味がわからず、母親に「パラダイスって何?」って聞きました。「天国だよ」と教えてもらったのが、英語学習への第一歩です。
出張先の接待でカラオケに行くときには、長らく持ち歌でした。
◆3.青い地平線(ブレッド&バター)
歌手の名が「ル・ミストラル」の場合もありますが、当時、2人組のブレッド&バターの別名が「ル・ミストラル」だったそうで、ここはブレッド&バターで表記します。
「おはよう700」という朝番組があり、そこで流れていた1曲。これを観て、「8時の空」をちょっと観てから学校や職場へ出発というのが当時の我が家。
メロディーは覚えていたんですが、題名がわからず、筒美さんの「HISTORY」を買ったときにようやく判明。作詞はなかにし礼さん、LINDA RHEEさんという珍しいタッグで、イントロが印象的な1曲。
イメージでいえば、カフェオレ飲みながらクロワッサン食べて聞くにはピッタリなので、仏文科出身のなかにしさんに依頼したのかなと思ったりしています。
◆4.時代遅れの恋人たち(中村雅俊)
学園ドラマ「ゆうひが丘の総理大臣」の主題歌。親が厳しかったのと、テレビが1台しかない時代だったので、初放送では見ていませんが、夕方4時からの再放送、夏休みや冬休みの午前中の集中放送で、何度も観ていた記憶があります。STV(札幌テレビ)はよく学園モノの再放送をやってました。あの時代のドラマを観ていた人なら知っている1曲です。あとは、井上純一さんのファンでした。
◆5.さすらい気分(野口五郎)
これまたドラマ「青春諸君!夏」の主題歌。その前の「青春諸君」は社会人・大学生向けの寮を題材にしたドラマで、その続編的なドラマだったのですが、主人公の寮長が田中健さんで、入寮者の大半の苗字は何故だか、「杉下」でした(記憶違いかな)。で、寮生に岸部シローさん、中原理恵さん、中井貴恵さん、岡江久美子さん等々。寮長を巡って中原さんと中井さんの三角関係があり、最終回はどうなるのかな?と楽しみにしていたら、何らかの理由で観られませんでした。直後に再放送があっても何故か再放送だけはいまだ観られません。CSに網を張っていても、最近は再放送されない不思議なドラマです。
2番、3番と転調していく珍しい歌ですが、難なく歌っている野口五郎さんはうまい!の一言。
◆6.ロンリネス(桑名正博)
「セクシャルバイオレットNo.1」のヒット後、桑名さんご本人が出演したTBS系列の「恋人たち」というドラマがありました。原作は昭和の文豪、立原正秋さん。幼少時に行方不明になった一番下の弟と偶然遭遇した次男(根津甚八さん)を中心としたドラマだったのですが、そのドラマの主題歌が「ロンリネス」でした。作詞は下田逸郎さんというめずらしい布陣の1曲です。ドラマの最終回、実の母親(加藤治子さん)に会わずに遠くへ去ってしまった弟の心中を慮る母親と長男・次男の会話にこのバラード調の主題歌が妙に合っていました。桑名さんご本人が何かの番組で、自分の持ち歌で一番好きな歌は何かと聞かれた時に、間髪入れずに「ロンリネス」と答えていたことも懐かしいです。
立原正秋さんの作品、ご本人の逝去後、映像化されることも少なくなり、文庫の大半が絶版になっているので、このドラマの原作を入手するのも困難になってしまいました。亡くなった父が何冊か保有しておりましたので、大事に引き継ごうと思います。
◆7.ウィークエンド・ラヴ WEEKEND LOVE(TANTAN)
家が厳しかったの何だの言ってますが、ドラマは再放送で結構観ていました。これも1981年頃の金曜ドラマで「土曜・日曜・月曜」という作品の主題歌です。浅丘ルリ子さん、田村正和さん、池上季実子さんが出演していた作品。主題歌は、フルートのイントロから始まるマイナー調で、この時代にずいぶん洗練された1曲でした。TANTANは、歌手大空はるみさんの別名で、作詞はドラマの脚本も執筆していた福田陽一郎さんです。大人になってから、福田さんが舞台「ショーガール」の演出を手掛けた人だと知り、どおりでおしゃれなドラマだったわけだ、と納得。
ドラマ放送当時、日本は週休二日制じゃありませんから、土曜日も家族は働きに行き、子どもは学校です。いわゆる「半ドン」というやつです。その時代に、自動車電話付のオープンカーに乗った建築家の千野(田村さん)が、画廊経営の夏美(浅丘さん)を乗せて軽井沢まで送る。浅丘さんは軽井沢の別荘でほんとのご主人(高橋昌也さん)と義理の娘(池上さん)が待っているので、週末(土曜・日曜)は別荘で過ごし、週明け(月曜)に恋人のところへ帰っていくというのが、ドラマのタイトルの由来だそうです。
子供心に、「軽井沢って、東京のお金持ちの人が遊びに行くところなんだ」とビックリしたのと、こんなところ行くことって一生のうちに何回あるんだろうかと考えました。
実はそれから3年後、関東圏の小学校に転校していた私は、林間学校で軽井沢へ行きました。ドラマで出てきた自動車電話をお土産に買おう!と考えた間抜けな小学生でしたが、当然、そんなものは売っているわけがなく、細長い棒状の「ミルク飴」買って帰ったら、二日酔い後にお腹を空かせた父親が全部食べちゃったというオチがあります。
◆8.わたしの彼は左きき(麻丘めぐみ)
ワイドショーで訃報のニュースが紹介されているときに、代表曲として紹介。この曲の背景は、作詞家の千家和也さんのテレビ番組で拝見したことがあります。朝、歯磨きしている姿を鏡で見ていたら、当然、反対に映る。なんでも反対(左きき)の人を題材に歌詞を書いたらどうなるんだろう?という着想から、1曲書いたとのこと。
この歌がヒットしている頃、姉が毎日歌っていたそうです。そのせいか、妹の私が何でも左手で持ちたがるので、「左利きじゃないか」と父に確認。父も私の様子を見て、左利きと確信。母は左利きの私に対して、一瞬、困ったような顔をしたそうですが、「そのままいく」という父の方針のもと、矯正されずに今日に至ります。歌のヒットのおかげで健やかに育ちました。感謝。
◆9.サザエさん一家(宇野ゆう子)
筒美さんは、国民的アニメーションのオープニングとエンディングの両方を作曲しています。恐らく日本で1番有名な歌です。オープニングの「サザエさん」を聞くとワクワクするんですが、エンディングは明るい歌なのに、気分はどんより暗くなります。「明日の宿題と時間割を確認しなくちゃ」と、準備を始め出すのが毎週日曜日18:55の恒例でした。
社会人になってもその傾向は変わらず、「そろそろ風呂入ろうか」とか「明日は雨だから雨靴準備だね」って感じです。
「サザエさん一家」は、日曜から月曜日の戦闘モードに切り替わるテーマ曲です。
◆10.カナディアン アコーディオン(井上陽水)
シンガーソングライターが職業作曲家の楽曲を歌った珍しい1曲。作詞は井上さんご本人。しかし筒美さん作曲でも、あの声にかかれば、ちゃんとご自身の持ち歌として独特の個性を発揮。
♪僕は~何にも~言(ゆ)わないけれど
「い」わないじゃなく、「ゆ」わないと歌っているところがミソで、そのフレーズが一度聞いたら忘れられず、何度もリピートしてしまう不思議な1曲です。
今回、なるべく新聞・雑誌に掲載されないような楽曲を選んだら、偶然にも作詞が松本隆さんではない10曲になりました。松本隆さんの全集や特集はもれなく買っている程のファンですが、これは別の機会にご紹介できたらなあと思います。
いまやYouTubeという便利なツールがありますので、検索すれば大体のことはすぐにわかる便利な時代になりました。とはいえ、筒美さん関連で買い集めたCD全集、インタビュー記事、ご本人出演の貴重なテレビ番組のDVDは大切にしたいです。
筒美京平さん、長い間たくさんの楽曲をありがとうございました。