【2024年6月】「昭和怪事件案内」で64年の振り返り【書評】

「昭和元禄」って言い方も知らない人は増えた?

観光政策や暮らしのリスクについての書評を時々発信しているが、今回は
昭和時代に発生した怪事件を漫画化したドリヤス工場さんの
昭和怪事件案内」(文藝春秋)に目が留まった。

元々、日本史や世界史のこぼれ話的なものを読み漁るのが好きな方だった。
約30年位前になるが「週刊日録20世紀」という講談社から刊行された本を
毎週買い集めて全巻揃えたり、「戦後史開封」という産経新聞社の本も全巻
揃えていた。

歴代の芥川賞・直木賞受賞者と候補作が網羅された本も持っていた。
これらの本は残念ながら、数度の引っ越しと家族の看取りを終えた後の
心境の変化で断捨離に向かったのである。

図書館ほど広い邸宅にでも住んでいたら、もう少し残せたかもしれないが、
仕方がない。

今回、この本を買ったのはライトな作風と本の切り口に惹かれたからである。
この本を紹介しながら、記憶の断片を呼び覚ましていこう。

◆来年は昭和100年

いまだ日本は昭和生まれの方が多いだろう。
64年(63年と1週間)も続いていたし、西暦で表記
されるより、昭和換算された方が情景がパッと浮かぶ
社会的事件もある。

今も何かの拍子に「昭和に換算すると何年だっけ?」と
考えることがある。
2025年がちょうど「昭和100年」だそうで、そのふり返り的な
位置づけで1月23日に発売され、じわじわとベストセラーに
なっているようだ。

この作品は、昭和に発生した事件を30本に絞り込み、
10ページくらいの漫画にしたもので、主な登場人物は
週刊誌編集部員の昭島和未と小平という新人記者だ。

この2人を会話を中心に怪事件がわかりやすく解説されて
いく。

主な事件を紹介すると

第2回   煙突男事件
第4回   白木屋火災
第11回 帝銀事件
第15回 太陽族
第20回 三億円事件
第22回 目玉男事件
第27回 口裂け女

等である。

◆法改正につながったもの、世相を反映した事件

白木屋火災のように、消防法が改正されて
スプリンクラーや防火扉の設置に繋がった大事件もあるし、
GHQの介入で大きく変わった日本映画の話なども織り交ぜながら
多彩に展開されていく。

類似性のある内容でいくと
第2回の煙突男事件と第22回の目玉男事件である。
前者は昭和5(1930)年、労働争議の起こった工場の煙突に
6日間居座った男の話、後者は昭和45(1970)年に大阪万博の
太陽の塔によじ登り、万博反対を訴えて1週間居座った男の話である。

前者の方が困っている労働者への助太刀という意味合いがあったが、
後者は学生運動の雰囲気を漂わせながら戦後の大型イベントに反対
しかも一番目立つ太陽の塔に登るという、パフォーマンス色が強い
ところにも、戦後高度成長期を迎えていたニッポンを感じさせた。

今回、目玉男事件のページを読み、30年以上前に購入した
新潮文庫の「B級ニュース図鑑」(泉麻人)に同じ目玉男を取り上げた
新聞記事が紹介されていたのを思い出し、ひっぱりだしてみた。

「万国博の目玉男一週間」(昭和45年5月2日の毎日新聞夕刊)
という記事内で

(万国博)協会は30日、警察にはこっそり隠れてビニール袋に
水540CCを入れ紙コップまで差し入れた。
男はこれで元気を取り戻し「記者会見させよ」
「記者会見後、食事をさせて、ふたたび目の中にもどせ」とか
無理難題をふっかけ…(中略)
水の差し入れを知った警察側は「そんな勝手なことをされては
今後、男の引降ろしには責任は持てぬ」と怒ったが、
あとのまつり。

なんと、大阪府警に隠れて万博協会が水を差し入れし、府警がカンカンに
怒っていた。一体どっちの味方なんだと言われてしまいそうなやりとりだが、
事故なく犯人を確保したことを知る今となっては、どこかのどかな風情を
感じてしまう。

その2年後に、あさま山荘事件が発生する前なので、
(よど号ハイジャック事件の2か月後)まだ危機感に乏しかったのは
言うまでもない。

◆収録されなかった重要案件を思い浮かべてみた

第28回にグリコ・森永事件を収録していたものの、
その7年前に世間を震撼させた「毒入りコーラ事件」(1977年)
お寺からトラが逃げた「トラ騒動」(1979年)
特殊部隊が入った「三菱銀行人質事件」(1979年)
2日連続で重大事故が発生した
ホテルニュージャパン火災」と「日航羽田沖墜落事故」(1982年)
昭和最後の日」(1989年1月7日)

その他色々、思い出される事件・事故・世相があった。
今日に通じる防災・危機管理上の教訓も多数あるので、
もし続編ができるとすれば、取り上げてほしい。

ご紹介した「昭和怪事件案内」はこちらクリック